quantale's diary

日々の数学/物理等の読書記録

ナブラのための協奏曲 ―ベクトル解析と微分積分― 太田 浩一 (著)

 ナブラのための協奏曲 ―ベクトル解析と微分積分―  太田 浩一 (著)

 

2020/09/12

 

モダンなベクトル解析の教科書。

物理学者らしく、簡潔にオペレーションを中心に展開。

記号の使い方も物理寄りである。

 

第一章はブラケット記号で線形代数ヒルベルト空間について記載。
量子力学を意識していることがわかる。

 

その後はベクトル解析であるが、多様体に踏み込まずオペレーション中心にベクトル形式等が展開される。

 

微分形式のマクスウェル方程式がとてもシンプルに書き下せるところは、やはり面白い。

 

モダンなベクトル解析は、今では必須の知識であるが、体系的な記載は意外と少ない。電磁気学量子力学相対性理論での言葉を整理したい人に向いていそう。

 

自分としてはもう少し数学寄りの立場から書かれたベクトル解析の教科書が好きであるが、物理学者のこうした本は鑑賞として大変興味深い。

 

ナブラのための協奏曲 ―ベクトル解析と微分積分―

ナブラのための協奏曲 ―ベクトル解析と微分積分―

  • 作者:太田 浩一
  • 発売日: 2015/03/10
  • メディア: 単行本
 

数学のなかの物理学―幾何学的量子論へむかって 大森 英樹 (著)

 数学のなかの物理学―幾何学量子論へむかって

 

大森先生の本は裳華房からも出ていますが、この本はそれとは違ったスタイルです。

数学者の夢見る物理学。

 

数学者は完成されたものを公開する傾向にあり、それはガウス以降の正当派の流れです。

 

しかし、物理についてそのままあてはめた場合、現在の量子力学ですら、成書が出ることはないと思います。

 

大森さんの考える量子論の記述について、ダイナミックに話が展開されていきます。

 

大学生にとっては課程のテキストのみで目いっぱいでしょうし、大学院生にとっては論文に直結しない本は避けるでしょう。しかし、自分の考えを持つ、自然理解を表現するという観点からはこうした本はいいお手本かと思います。

 

定期的に再読したい一冊です。

 

数学のなかの物理学―幾何学的量子論へむかって

数学のなかの物理学―幾何学的量子論へむかって

  • 作者:大森 英樹
  • 発売日: 2004/11/01
  • メディア: 単行本
 

ユニタリ表現入門 杉浦 光夫 (著)

ユニタリ表現入門 杉浦 光夫 (著)

 

良く知られた上智大学講義録がこんな素晴らしい形でよみがえるなんて。

本屋で見つけてびっくりしました。フォントがきれいですね。

著名な著者たちのコラムがまた面白いです。

 

杉浦光夫 ユニタリ表現入門

杉浦光夫 ユニタリ表現入門

  • 作者:杉浦 光夫
  • 発売日: 2018/05/25
  • メディア: 単行本
 

なるほど虚数―理工系数学入門 村上 雅人 (著)

なるほど虚数―理工系数学入門
村上 雅人 (著)

 

「なるほど」の量子力学シリーズから始まり、全シリーズを読もうと思う。

今回は「虚数」を完読。

その他、オイラーの公式について、位相がπ/2ずれた実部、虚部を表現できることなどは基礎ではあるが、面白い。(実際、応用のシーンではHilbert変換や複素ウェーブレット変換でも同様の構成を用いる。深い。)

 

複素関数論は、数学者の本を何冊も読んできたが、ホモトピー等、位相的な議論から、コーシーの積分公式の証明は大変骨が折れる。著者の提示する方法は、高校生でも理解できそうだ。(もちろん厳密性は捨てるが、厳密性よりも数学的な実体が大事なことのほうが多い。)

 

量子力学の章とFourier変換の章は、一度学習した人向けかもしれないが、そのほかのすべての章は高校生でも読めそうだ。

 

多様体の基礎 (基礎数学) (著)松本 幸夫

多様体の基礎 (基礎数学) (著)松本 幸夫

 

多様体について、このシリーズの中でも詳しいくらい解説してくれます。

 

折に触れ参照するこの本ですが、なんと、私にとってショッキングなことがありました。2020/09/08 時点ではKindle版が「調査中」となり、購入できなくなってしまいました。

 

確かにKindle版の品質に関するレビューが多かったので、その影響かもしれません。(紙からスキャンしたままの曲面上の文字が味があって、そして多様体らしくて良かったのですが。。。)

 

再度Kindle版が提供されることを望んでいます。

 

なるほど量子力学〈2〉

なるほど量子力学〈2〉
村上 雅人 (著) 

 

シュレディンガー方程式について懇切丁寧に解説。

1巻(行列力学)もよい内容だが、2巻(波動力学)のほうが、

大学学部の授業ではメインとなりそう。

2巻からも読めるよに構成されているため、2巻→1巻→3巻の順で読むのがおすすめ。

 

Finite-Dimensional Vector Spaces: Second Edition

Finite-Dimensional Vector Spaces: Second Edition (Dover Books on Mathematics)

Paul R. Halmos (著)

 

Coodinate-Freeの立場から書かれた線形代数テキスト。

原著はSpringer UTMシリーズで親しまれてきたが、Dover出版社から再販されている。

 

線形代数には著者の哲学表れることが多いが、この本はまさにそれである。有限次元固有の箇所もあるが、多くの部分は無限次元、すなわちヒルベルト空間にそのまま当てはまる。

 

「Coodinate-Free」という言葉は聞きなれないかもしれないが、抽象的な代数として線形空間線形代数を規定し、それらの具体的な表現として数ベクトルや行列を考えるというものである。(と、私も大学院生時代にT大の超博学な学生Kさんから教わった。)

 

多くの本は数ベクトルや行列から始まるが、本書では抽象論が続き、双対基底などの考え方が出てくるが、現代数学の立場からは自然な展開の仕方である。

 

一方で初学者にはおすすめしない。具体例(数ベクトル、行列など)を中心とした一般的な線形代数をマスターし、余力がある方や、理論的に線形代数のより高い位置からの整理をしたい人、もしくは(私の場合であるが)Halmos先生の哲学を学びたい人向けである。

  • Dover版が安い。
  • ボロボロになるまで熟読するにはSpringer, GTMシリーズのハードカバー版がおすすめ。
  • 電子版はKindle版も持っているが、フォントが厳しいためお勧めしない。一方で、Springerから直接PDF版を購入することができ、こちらは原著そのままのページを画像化しているため、おすすめ。